如来大悲の恩徳は
身を粉にしても報ずべし
師主知識の恩徳も
ほねをくだきても謝すべし


…正像末和讃
(註釈版聖典六一〇頁))

皆さまこんにちは。
あっという間に今年も残すところ一カ月となりました。
歳を重ねて行けば行くほど、一日が、ひと月が、一年が、時間の流れがとても速く感じます。
今年も新型コロナウィルスに世界中が振り回された一年でした。
ウィルスの感染以外にも、世界的に物流が滞ったり、半導体が不足して車の生産が出来なかった
り、様々な影響が出ています。
あまり知られていませんが、実は世界的に鉄も不足しているんです。
ですから、これからのシーズンに欠かせないスタッドレスタイヤもアルミ・ホイールのセットは
品薄でデザインも選べず、あるものしか買えません。
実は私は趣味でクレー射撃をしています(もちろん殺生は絶対にしません)。
単に飛んで行くお皿を撃つ競技のみをしていますが、密かに国体出場を目指しています。
クレー射撃の弾もやはり鉄不足でどこの銃砲店にも在庫が無く、この冬のシーズンにたくさん
練習しないといけないのに、全然撃ちに行けません。
これもコロナの影響ですが、様々な物を輸入に頼って成り立っている日本にとっては本当に痛手
です。

何でも当たり前である世の中で生きていると、一つ何かが欠けた途端に人はパニックになり
ます。
つい最近もデマに振り回されてトイレットペーパーがいっきに買い占められ、お店から無くなり
ました。
「ロックダウンが実施されるかもしれない」という報道で、スーパーやコンビニから食べ物が
いっきに無くなりました。
また、コロナ禍によって人々の心が狭くなったり、病んでしまったりする事も見受けられます。
電車の中や雑踏で人を無差別に刃物で刺したり、神社やお寺の賽銭箱からお金を盗むという窃盗
事件も多く起こっています。
なぜ「わたし」はそんなに弱いのでしょうか?

皆さん、「ありがとう」や「感謝」の対義語はご存知でしょうか?
実は、「当たり前」なんです。
「わたし」が弱いのは、「当たり前」に頼り、すがって生きているからなのだと思います。
言い換えると、感謝の無い、ありがたみも感じない生活を「わたし」は送っているんです。
蛇口をひねれば水は出る。
生活雑貨や食べ物は近所のコンビニエンス・ストアで大抵揃う。
ガソリンスタンドに行けば、車のガソリンやストーブの灯油が手に入る。
スマートフォンをタッチすれば、今や全世界の人達と繋がることが出来る。
…これらは元々当たり前ではなかったですよね?
水道が引けて…コンビニが出来て…ガソリンスタンドで燃料が簡単に手に入り…スマートフォン
が出来て、最初は使い方もよくわからなかったけど、使いこなしてみて…そこで…
「なんて便利なんだ!これはありがたい!」と誰もがそう感じたはずです。
でも、その「ありがたい」もやがて「当たり前」になっていき、何かの拍子に手に入らなくなる
と、パニックになってしまう「わたし」。

阿弥陀さまは、そんな弱いわたしを見捨てることが出来なかった方です。
迷いの、苦の世界で生き死にを繰り返し輪廻を続けるわたしに、「本当のやすらぎを与えてあげ
たい」とお思い下さり、次にこの世と縁が尽きた時、またこの世に戻るのではなく、お浄土と
いう新たに生まれる場所を、わたしのためにご用意して下さいました。

今月のご和讃は、「恩徳讃(おんどくさん)」と呼ばれる有名なご和讃です。
浄土真宗のお寺での法要行事での最後によく歌われていますね。
わたしをお救い下さる阿弥陀如来の慈しみ、大悲心のご恩は、このわが身を粉にしてまでも
報いたい。師主(お釈迦さま)知識(お浄土の教えをお伝え下さった七高僧やその他の仏弟子
の方々)のご恩にも、我が身の骨を砕いてでも感謝したい、という意味です。
つまり、どんな尽くしても返しきれない大いなるご恩であるという受け止めなのです。
「恩」という字は「因」に「心」が組み合わされていますね。
因とは原因の事です。
心に因をよくとどめておくからこその「ご恩」なのです。
「当たり前」に囲まれながらひとり、一人前顔で生きているわたしですが、そこにはわたしを
生かしめる阿弥陀さまの願いがあり、果てしなく迷い続けるこの世界を流転し続けてきたき罪障
多き身のままで、大悲新の大いなるはたらきによってお浄土への道を歩ませていただいているの
です。
これこそが「生死(しょうじ」を超える身であり、阿弥陀さまのおはたらきによって、既に
わたしはお救いの光に包まれているのです。
なんとありがたいことでしょうか。
ですから、尽くしても返しきれない大きなご恩に、身を粉にしても、骨を砕いても、報い、感謝
する…そのような報恩の生活こそが、お念仏の生き方なのです。

南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏

善教寺住職・本願寺派布教使
釋 一心(西守 騎世将)







 


 
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