如来の作願をたづぬれば
苦悩の有情をすてずして
回向を首としたまひて
大悲心をば成就せり

…正像末和讃
(註釈版聖典六〇六頁))

皆さまこんにちは。
今年も早いものであと三か月となりました。
新型コロナウィルスの「第○波」が話題となっては消え、それを繰り返しているうちに
あっという間に一年が終わってしまいます…
なんだか新型コロナウィルスに振り回されっぱなしのここ最近ですよね。

さて、近年「鬼滅の刃」が大ブレ―クです。
ストーリー性、描写の美しさ、登場人物の魅力やユニークなキャラクター、どれも秀逸
なのですが、これに加えてセリフの重みにも私は感動しています。
特に、今月の掲示である「失っても失っても、生きていくしかない…」というセリフは
仏教にも通ずるものだと思い、これに決めました。

このセリフは、物語の主人公である竃門炭治郎(かまどたんじろう)が、婚約者が
鬼に食べられてしまった事を知り、大変なショックを受ける青年に掛けた言葉です。
その炭治郎自身も、家族を鬼に殺され、そして辛うじて残った妹も鬼に変えられ、
何とか
妹を人間に戻そうと必死に努力し、鬼と戦い続けています。

話を現実に戻しますと、私たちは家族を鬼に殺され、鬼と戦う事はしていませんが、
日々、様々な出来事に心を打ちのめされ、そしてそれと戦ってはいます。
思えば、私たち人間はいろんなものを得て生まれ成長していきますが、あるところから
今度は段々とこれらを失っていきます。
若さであったり、健康であったり、愛する家族であったり…そう思うと人それぞれ、
何かしらを失いつつ今があるのではないでしょうか。
しかし、失っても失っても、やはり生きていくしかないです。

これら、自分ではコントロールできないことを仏教では「苦」と言います。
「生」まれる苦しみ…私たちはいつどの時代に、どの国のどんな場所で、どんな両親の
間に、どんな性別で、どんな境遇にて生まれるのか、全く選択肢の無い形で生まれ、
そして選択肢の無い命に責任を負って生きていかなければなりません。
つまりは、最初から選択肢を失って生まれてきます。
「老」いる苦しみ…人はどんどん歳を重ね、老いていきます。
それを止めることは誰にも出来ません。
ですから、この時点で若さを失っています。
「病」となる苦しみ…老いていくとやがて体力も落ち、何かしらの病となります。
これも自身で完全にコントロールはできません。
この時点で、健康を失っています。
でも、リセットボタンを押してやり直しすることはできません。
生きていくしかないんです。
でもやがて必ず人は「死」を迎えます。
不老長寿なんてものは存在しません。
これら「生・老・病・死」四つの苦しみを「四苦八苦」の最初の四苦と言います。
ここでは省きますがあと四つの苦を足して四苦+四苦で八苦となり、四苦八苦と言います。

そう思うと、私たち人間は失って、失って、ただ死に向かって生きていくのか?とは
思えますが、実はそうではありません。
でも、そんな迷いや苦しみの中で生きる私たちを、阿弥陀さまは放っておけなかったのです。

如来の作願をたづぬれば
苦悩の有情をすてずして
回向を首としたまひて
大悲心をば成就せり

阿弥陀さまは、「すべての人々を救う」という尊い願いを起こされましたが、その理由を、
お心をお尋ねすると、あらゆることを失いながら悩み、迷い、苦しむ私たちを決して
見捨てることが出来ず、本当の、真の安らぎを与えたい、とお思いになられました。
そして、長いご修行の功徳を私たちに振り向けることを第一として、「必ず救う」のだ
という大いなるお慈悲の誓願を成就され、お浄土を作って下さり、そこに必ず生まれさせて
下さるのです。
そう思うと、この身、このままが、阿弥陀さまのはたらきの中にあったことに気付かされ
ます。
南無阿弥陀仏のお念仏から聞こえる「我にまかせよ、必ず救う」という阿弥陀さまがよび続け
て下さるお育ての中で、すでに私のためにお救いが用意されていたことに気付かされます。

失っても、失っても、生きていくしかない…いや、強く生き抜いていけるのだ。
阿弥陀さまが常に私に寄り添い、お救いの光を当てて下さっているのだから。

…というメッセージである、が私のお味わいでした。
私たちは、単に失って悩み、苦しみ、迷いながら死に向かっていくために生まれて来たの
ではない。
お浄土に生まれ、そこでの命を得るために、この世に生まれたのです。
そして阿弥陀さまから常に「大丈夫。安心しなさい。私がついているよ」と常によばれて
いる、ありがたくも、もったいない身でありました。

南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏

善教寺住職
釋 一心(西守 騎世将)







 


 
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